
電波が届かない場所でも通話できる仕組み
2025年9月、中国のメーカーXiaomiが発表した新しいスマートフォン「Xiaomi 15Tシリーズ」には、携帯電話の電波が届かない場所でも通話できるという機能で、正式名称は「Xiaomi Offline Communication」
従来の通信技術と少し異なる独自のプラットフォームが搭載された。

この機能は最大で約1.9km離れた相手と音声通話やテキストメッセージを直接やり取りできるとされている。
従来のスマートフォンは、携帯基地局を介して通信する仕組みのため、山奥や災害時など電波が圏外の場所では通話できなかった。この制約を超えた点が大きな注目点である。
| 項目 | Xiaomi 15T | Xiaomi 15T Pro | 今後の対応予定機種 |
|---|---|---|---|
| 発売時期 | 2025年9月26日 | 2025年9月26日 | 未発表(17シリーズなどの噂) |
| 最大通話距離(理論値) | 約1.3km | 約1.9km | 未定 |
| 対応機能 | 直接通話(Offline Comm.) | 直接通話(Offline Comm.) | 未定(順次拡大予定) |
Xiaomi Offline Communicationを使用する設定・条件は?
- 対応機種同士(Xiaomi 15T または 15T Pro)でのみ利用可能。
- 各端末にSIMカードを挿入していること。
- Xiaomiアカウントでそれぞれログインしていること。
- BluetoothをONにしていること。
- 設定メニュー内の「モバイルネットワーク」→「Xiaomiオフライン通信」を有効にすること。
オフライン通信を支えるLoRa技術
新機能の中心にあるのが「LoRa(ローラ)」と呼ばれる無線通信技術。
LoRaは“Long Range(長距離)”の略で、少ない電力で広い範囲に通信を届けることを得意としている。
もともとはスマートメーターやセンサーなど、少量のデータをやり取りするIoT機器に使われてきた。

一般的なスマートフォンが使うLTEや5Gの電波は、携帯基地局を通じて通信を行う。一方、LoRaは異なる周波数帯を使い、スマートフォン同士が直接通信できる「D2D通信(Device to Device)」という仕組み。
つまり、基地局を介さずに相手のスマホへ直接信号を送るため、圏外でも通話が成立する。
この方式を音声通話に応用するために、Xiaomiは独自の通信方法(プロトコル)を開発したとされる。
完全に電波を使わないわけではなく、携帯電話とは別の周波数帯を使って通信している点が特徴である。
通話可能な条件と制限
オフライン通話は、すべての状況で使えるわけではない。実際にはいくつか条件がある。

- 通信距離は最大約1.3kmだが、建物や山など障害物があると短くなる。
- 使用には両方のスマートフォンに同じ機能が搭載されていることが必要。
- 通話だけでなく、短いメッセージの送受信も可能。
- 現時点では画像や動画などの大きなデータ通信には対応していない。
- 使用地域によっては電波の出力や周波数の規制があり、機能が制限される場合がある。
また、Xiaomiはこの機能を「非常用通信を完全に代替するものではない」と説明しており、
日常の補助的な通信手段としての位置づけにしている。
技術的な意味と社会的な可能性
スマートフォン市場では、近年スペック競争が飽和している。処理速度やカメラ性能だけで差別化するのが難しくなった中で、Xiaomiが打ち出したのは「電波が届かなくてもつながる」という新しい価値だ。
この技術が持つ意味は大きい。たとえば、次のような場面で活用が考えられる。
- 山登りやキャンプなど、携帯電波が届かないアウトドア環境
- 災害時に通信網が途絶えたときの一時的な連絡手段
- コンサートやイベント会場など、通信が混雑して使えない場所
このように、非常時や特定環境での「確実なつながり」を目指す方向性が、
のスマートフォン開発に新しい方向性を示している。
日本での導入に関わる課題
ただし、日本でこの機能をそのまま利用するには課題が多い‥
日本の電波法では、無線通信に使う周波数や出力は厳しく制限されている。
LoRaのような通信も免許が必要な場合があり、出力が制限されれば通信距離が短くなる可能性がある。

また、他の無線機器との干渉を防ぐため、使える周波数帯の設定も国によって異なる。そのため、日本国内で利用できるようにするには、法律や技術の両面から慎重な調整が求められる。
新たな通信時代への一歩
「Xiaomi Offline Communication」は、単に新しい機能というよりも、通信の考え方そのものを変える試みといえる。スマートフォンが単独で通信を完結できるようになれば、災害時の命綱にもなり得る。
また、このような機能が他のメーカーにも広がれば、電波インフラに依存しない“自立した通信”という新たなスタンダードが生まれる可能性がある。

技術的な課題や法的な壁は残るが、「どんな場所でも人と人がつながる」未来へ向けた一歩として、今回のXiaomiの発表は非常に大きな意味を持っている。


